「ゲーム理論」は、現代のビジネスシーンにおいて必須の思考法です。海外のMBAでは、必須の科目とされている分野でもあります。経済誌や経済ニュースで記事を読んでいて、「ゲーム理論」を目にしたことのある方も多いと思います。しかし、数学的な考え方がベースにある理論なので、苦手意識を感じたり、非常に難解なテーマであるというイメージを持たれてたりする方も少なくないのではいでしょうか。ゲーム理論は一つの記事にまとめられるようなテーマではありませんが、本記事ではゲーム理論を学ぶきっかけになるような基本知識について初学者にもわかりやすく紹介していきます。
「ゲーム理論」とは
ゲーム理論(Game Theory)とは、一定の制約やルールに基づき複数の行動主体(プレイヤー)が相互に影響し合う状況を「ゲーム」と捉え、プレイヤー間の利得の対立と協力の関係を解き明かすそうとする数学や経済学における理論です。
このゲーム理論は、20世紀前半にハンガリー出身のアメリカの数学者ジョン・フォイ・ノイマン博士と、ドイツに生まれオーストリアで育ちアメリカで活躍した経済学者オスカー・モルゲンシュテルン博士の共著である『ゲーム理論と経済行動』(1944年)によって確立された理論です。彼らの思想の背景にはマルクス、ウェーバー、ウィトゲンシュタインといったドイツ語圏のユダヤ人思想の潮流があると言われており、数学や経済学における重要な研究領域として分類されています。ゲーム理論に関する複数の研究が、ノーベル経済学賞を受賞しており、現在も重要な研究テーマとして扱われています。また、実戦的な学問として、実際のビジネス現場にも応用できる数多くの定理が存在するので、ビジネスパーソンの教養として広く学ばれているのです。
さらに、経済学・経営学といった分野だけでなく、政治学、法律学、社会学、生物学、工学といった様々な学問領域でも応用されています。加えて、スポーツ分野とも相性がよく、指導者や選手がパフォーマンス向上のためにゲーム理論を学ぶ事例も多くあります。
ゲーム理論の基本要素
ゲーム理論の基本要素は以下に挙げる「プレイヤー」「戦略」「利得」の3つになります。
プレイヤー
プレイヤーとはゲームの参加者です。ビジネスシーンでは、企業やユーザーがプレイヤーになります。
戦略
戦略とはゲームの中でプレイヤーが目標を達成するためにどのような行動を計画・選択するかということです。ビジネスシーンでは、ライバル企業との市場競争で、ライバル業と同様の低価格路線を選択するか、それとも高級品路線を選択するかといった事柄が戦略になります。
利得
利得とは、戦略に従うことで得られるプレイヤーの利益を数値で示したものです。数値化しにくいものでも、例えば勝ちを「1」、負けを「-1」、引き分けを「0」などと設定して比較可能にして考えていきます。ビジネスシーンでは、価格、営業実績、PV数など様々な値が利得として考えられます。
ゲーム理論の代表的なモデル「囚人のジレンマ」とは
ゲーム理論の代表的なモデルについて簡単に解説します。
「囚人のジレンマ」とは
「共犯であると思われる囚人2人を自白させるために、検事は2人をお互いに意思疎通できない別室に隔離し、司法取引をもちかける」といった設定を用いたゲーム理論における代表的なモデルケースです。以下が「囚人のジレンマ」におけるゲーム理論の3つの基本要素です。
- プレイヤー:囚人A、囚人B
- 戦略:「自白」か「黙秘」という選択
- 利得:「両者が自白すれば懲役10年」「両者が黙秘すれば懲役5年」「片方だけが自白すれば、自白した者は無罪、黙秘した者が懲役20年」という司法取引の内容
※懲役の年数はあくまでも一例です
「囚人のジレンマ」は以下のような「利得表」にまとめるとわかりやすいです。
「囚人のジレンマ」の構造を理解する上で、覚えておきたいのが以下に挙げる2つの状態です。
「ナッシュ均衡」(リスクの少ない選択)
ナッシュ均衡とは、すべてのプレイヤーが、一定のルールのもと自らの利得が最大となる最適な戦略を選択し合っている状態のことを指します。ノーベル経済学賞を受賞した数学者のジョン・フォーブス・ナッシュ博士にになんで名付けられました。ナッシュ均衡は、お互いのとる戦略が、それぞれの相手の戦略に対する最適解となる戦略なのです。前述の「囚人のジレンマ」の事例においては、囚人Aと囚人Bの両者が自白して、2人とも懲役が10年になったケースがナッシュ均衡となります。ナッシュ均衡は、リスクの少ない選択です。
「パレート最適」(犠牲のない最良の選択)
パレート最適とは、資源が無駄なく配分された状態を指す言葉です。イタリアの社会学者であるヴィルフレド・パレートが提唱した理論で、より正確にこの状態のことを説明すれば「資源を配分するときに誰か効用(満足)を犠牲にしないと、他者の効用を高められない状態」ということになります。「パレート効率性」と呼ばれることもあります。パレート最適は、自身の状態を良くするために、他のプレイヤーの状態を犠牲にしなければならない状態です。前述の「囚人のジレンマ」の事例においては、囚人Aと囚人Bの両者が黙秘して、2人とも懲役が5年になったケースがパレート最適となります。パレート最適は、犠牲のない最良な選択となります。
ジレンマとは、ある問題に対して相反する2つの選択肢が存在し、そのどちらを選んでも何らかの不利益を被るリスクがあり、態度を決めかねる「板挟み」の状態のことを指しています。リスクの少ない「ナッシュ均衡」と、最良の選択である「パレート最適」は必ずしも一致しません。各プレーヤーが、自分にとって最も利益のある選択をすると、お互いのことを考えて協力した場合よりも悪い結果が生じるこの現象を指して「囚人のジレンマ」と呼んでいるのです
ゲーム理論をビジネスに応用する方法
ゲーム理論をビジネスに活用する方法として最も導入しやすい手法は、「囚人のジレンマ」でも用いられた「利得表」を作成してみることです。ここでは企業Aと企業Bが商品の値下げを行うか否かの戦略を考えるという事例をもとに「利得表」を作成してみましょう。
上記のようにビジネス上のある問題に対してゲーム理論の「利得表」を作成することで、自社にとっての最適解を考える手助けになるのです。
ゲーム理論について学べるおすすめの本4選
最後にゲーム理論について学べるおすすめの本4選を紹介します。
ゲーム理論の思考法
出版社:中経出版
ゲーム理論の代表的なゲームを学びながら、その「戦略的思考」を見につけることを目的にした書籍です。著者は、ゲーム理論の研究で第一人者で経済学博士の川西 諭氏です。
世界一わかりやすいゲーム理論の教科書
出版社:中経出版
お菓子メーカーの女性社員を主人公にして、ゲーム理論をストーリー仕立てで学ぶことができる書籍です。著者は大手企業に勤務しながら作家としての活動も行う経営学修士の小関 尚紀氏です。
マンガでわかるゲーム理論
出版社:SBクリエイティブ
ゲーム理論の基本的な構造や、ゲームの解き方をマンガでわかりやすく解説した一冊です。著者は「マンガでわかる行動経済学」「マンガでわかる心理学」といったベストセラー書籍も手がけるポーポー・ポロダクションです。
マンガでやさしくわかるゲーム理論
出版社:日本能率協会マネジメントセンター
さびれた元炭鉱町の温泉街・歩成町を舞台に、突如失踪した兄の代わりに温泉旅館・桂馬屋の主人になった銀次郎が、桂馬屋の客として連泊していた香子に「ゲーム理論」を学ぶことで成長していくストーリーです。著者は「ゲーム理論の思考法」と同じ経済学博士の川西 諭氏です。
まとめ:ゲーム理論を活用してビジネス戦略を考えよう
ゲーム理論の基本的な考え方を身につけることができると、自分の立場だけでなく顧客やライバル企業など他者の立場にも立って、行動計画や利得を考えることができます。様々な決定や選択を行う上で判断の助けになる知識ですので、本記事で紹介したおすすめ書籍などを読んで、さらに深く本理論について学んでみましょう。
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