コロナ禍が続く中で働き方や価値観が劇的に変化しています。また、政治家や経営者の失言などからジェンダー平等やコンプライアンスといった問題の取り扱われ方も、ここ数年で大きく変わってきています。そんなパラダイムシフトの中を企業が生き抜くためには、時代や社会環境の変化に応じてアップデートした新しいビジネスモデルを創出することも必要になってきます。
しかし、何から手をつければよいのか、どうやって施策を練って、どんな手法をとっていくべきなのかを悩んでいるビジネスパーソンは相当数いるでしょう。そこで、本記事では新しいビジネスモデルを企画するのに最適な方法の一つであるリーンキャンバスについて解説します。
リーンキャンバスとは
リーンキャンバス(Lean Canvas)とは、事業やプロジェクトを企画する上で、ビジネスモデルを検証・改善していくのに役立つフレームワークです。このフレームワークは、アメリカの起業家エリック・リース氏が著した「リーンスタートアップ」という書籍で、スタートアップ企業のマネジメント手法として提唱した理論を基に、ITベンチャー起業家であるアッシュ・マウリヤ氏がウェブ系のスタートアップ向けにカスタマイズしたものです。
リーン(lean:無駄のない、引き締まっているなどの意)とは、マサチューセッツ工科大学の研究者らが日本の自動車産業における生産方式(主にトヨタ自動車が生み出した「トヨタ生産方式」の「ムダ取り」という考え方)に着目し、その成果を他分野・他業種にも応用できるように再体系化・一般化した「リーン生産方式」のことを指しています。
リーンキャンバスはスタートアップ向けの手法と思われがちですが、元になっているのが日本企業の生産管理手法の流れを汲んだ経営哲学なので、ベンチャー企業以外の日本企業にもフィットするビジネスフレームワークであると考えられます。また、Webアプリケーション開発にも造詣が深いマウリヤ氏によってカスタマイズされたフレームワークなので、開発プロジェクトに関わるエンジニアにとっても知っておいて損はない手法です。
9つの項目からビジネスモデルや新規プロジェクトに関する企画を整理・検証し、スピーディーに情報共有できるリーンキャンバスは、様々な企業で取り入れられているのです。
リーンキャンバスのメリット
この手法は、A4サイズ程度の1枚の紙面上で簡潔に自社の事業プランを俯瞰して理解できる点が大きなメリットです。また、新たにツールを導入しなくても作成可能なので、コストがかからず導入しやすいのもメリットの一つでしょう。簡潔ゆえに、チームやプロジェクト内で課題や商品・サービスのコンセプトをスピーディーに共有することができます。さらに、実際に検証を行った上で変更すべき箇所か出てきたら、素早くアップデートをかけることも簡単です。
リーンキャンバスのテンプレート
ExcelやPowerPointなどのオフィス系のソフトで自作することも十分に可能なフレームワークですが、「リーンキャンバス テンプレート」で検索すれば、ダウンロードして利用できる素材が沢山ヒットします。各項目の配置は決まっていますので、自作する場合は以下の画像を参考にしてみてください。
リーンキャンバスの作り方
リーンキャンバスを作成する上で必要な9つの項目について説明します。
1.顧客セグメント(Customer Segments)
最初に、商品やサービスを利用する顧客像・ユーザー像を設定する必要があります。Webメディア運営で設定されるペルソナも、顧客セグメントの一種です。セグメントには、年齢・性別・住んでいる地域・行動の傾向などがあります。その他にもイノベーター理論におけるアーリーアダプター、レイトマジョリティといった分類もセグメントとして活用できます。また近年は、性自認や性的指向といったLGBTQに関連するセグメントにも意識を向けることでマーケットシェアを獲得したり、ブランディングを行う施策を取る企業も増えています。人々の価値観が多様化する中で、セグメンテーションの要素も時代に合わせて変化している点にも留意しておきましょう。
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2.課題(Problem)
顧客が抱える課題について考えます。この課題は、解決すべき優先度の高い順に3つ書き出していきます。また、この課題に対する既存の代替商品・サービスについても書き出しておくと、競合他社の商品・サービスとの比較検討の中で、構造的にソリューションの仕組み(スキーム)を理解することができます。
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3.独自の価値提案(Unique Value Proposition)
リーンキャンバスを作成する上で、最も重要になる要素です。重要なだけに設定には困難を伴うことも多いです。競合他社と差別化できる自社の強みや価値を見出したり、言語化するのは容易なことではありません。しかし、明確で説得力のあるメッセージとして顧客に独自の価値を提案できるようになれば、十分に効果を期待できるビジネス・ソリューションを得られるでしょう。
4.解決策(Solution)
顧客が抱える課題に対する解決策(ソリューション)を定めて記載する項目です。独自の価値提案で設定した要素を意識して策を設定しましょう。多くの解決策が思い浮かぶかもしれませんが、明確な方向性を打ち出すためにも課題と同じく上位3つまでを記載します。検証していく中で優先順位が変わることや、課題自体を変更する必要性も出てきますので、その都度柔軟に変更できるように、ラフスケッチ程度にまとめるようにしましょう。
5.チャネル(Channels)
顧客に対して提案したい商品・サービスを、どのような販路を使って紹介していくかを設定します。チャネルは具体的に、オウンドメディア、SEO、LPなどプル型と呼ばれるインバウンドチャネル、テレビCMや印刷広告、営業電話、セミナーや展示会、リスティング広告といったアウトバンドチャネルといったものがあります。事業内容や顧客セグメントを意識して、最適な販路を選択することが大切です。
6.収益の流れ(Revenue Streams)
顧客が抱える課題に対して提案した新たな商品・サービスを、どのように収益化に結びつけていくかを記述する箇所です。商品であれば商品単価、サービスであれば誰からどのように収益を得るのかといった要素を軸に考察を重ねます。買い切りか月額のサブスクリプションか、クレジットカード利用か銀行引き落としかといった決済の方式も、この項目に含まれます。
7.コストの構造(Cost Structure)
商品やサービスの価値を提供するためにかかる原価コストを計算し記載する箇所です。企画の段階で、正確なコストを算出することは難しいので、大まかな数値設定で構いません。
8.主要指標(Key Metrics)
いわゆる、マーケティングや営業の現場で良く使われるKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)」を記載する箇所です。KPIは事業の最終的な目的を達成するために必要な中間目標ですので、慎重に検討しましょう。マウリヤ氏は「Running Lean」という著書で、AARRRモデル(Acquisition:新規ユーザー獲得、Activation:利用開始、Retention:継続利用、Referral:紹介、Revenue:収益化)という戦略思考を用いていると考えられるので、その手法を用いて指標を考えても良いかもしれません。
9.圧倒的な優位性(Unfair Advantage)
独自の価値提案と似ていますが、それよりも一段階上にある他社には絶対に真似のできない商品やサービスの優位性を設定していく項目です。他社が参入できない要素をいかに盛り込むかが重要なポイントです。
おわりに
今回解説した内容からもわかる通り、リーンキャンバスは有益なビジネスフレームワークを低コストで作成できるので、非常に取り組みやすい施策です。一方で、リーンキャンバスの前提になる経営の知識など、深堀すれば新たな発見を得られるかもしれません。ぜひ企画会議や企画書の作成などに取り入れてみてください。
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